異界の魔女の横浜放浪記

【[1598] 11日の横浜オフレポとこまごま】から抜粋。タイトルは適当。
注釈は全部、抜粋者のツッコミ。

Scene1 9:30 のぞみ6号車中

 ――そろそろ、起きてるかな。

 8号車。現在の東海道新幹線において、必ずグリーン車となる車両。
 その余裕のある席にもたれかかったまま、涼風穂香はケータイをいじっていた。

 メールの相手は、微風ろろみ。高校生でありながら売れっ子のアイドル作家でもあり、穂香とは親しい友人である。
 穂香のケータイには、こんな文字が躍っていた。

 ”そちらの天稀(違)はどうですか?”

 文字通り受け取ってはいけないが、そのまま送信する。

 目の前には、赤い天板の超小型パソコン*1。今日会う人から、先日譲っていただいたものである。
 このパソコンにはそれ専用の、99.9%以上の割合で女性をターゲットとして開発されたバッグが存在し、穂香はそれを入手していたのだが…………あまりにも小さすぎるのであった。パソコンと財布と、そのほか細々したものを入れると、すでに過積載である。ゆえにケータイを外ポケットに入れたり、デジカメをネックストラップで首にかけていたりするのだ。
 むろん、傘が入る余地などない。穂香の心配は、空にあった。

 ”小雨が降り出してきました”

 ろろみからのメールには、そうあった。裸で持ち歩くしかないかと思った。

Scene2 12:15 東京駅16番ホーム

 東京駅に滑り込んできたのぞみ6号に、ろろみはデジカメのレンズを向けていた。

 ――こうけいさんに付き合ってると、あたしも染まっちゃったのよね……

 穂香の乗るのぞみは、500系車両での運行である。この500系、『のぞみからこだまへ降格』とすでに運命づけられている、悲運の車両である。東京まで乗り入れる姿が見られるのも、降格までである。
 逃せば、もうこの勇姿を撮ることができない。ろろみはそう思っていた。ちなみに、こういう鉄道マニアを、”葬式鉄”という*2

「こんにちは〜」
 穂香は8号車の乗客の中で、一番遅れて姿を現した。
「降りる前、に」
 振り向いて、写真を撮る。降格とともに16両から8両へ編成が短縮され、グリーン車も廃止されるため、500系のグリーン車を見ることは、もうできなくなる。
「0系のさよなら運転、応募してみようかと思う」
「乗れたらレポートお願いしますね」
 ろろみだけでなく穂香も、”葬式鉄”の属性を持つらしい。

 八重洲口から一度外に出て、地下街へ入る。地下街の駅寄りにある、ある店舗が目的地である。
「『(PowerShotの)S30見かけたら捕獲しろ』って、ほたるさんから指示があって」
 二人が入ったのは『カメラのきむら 八重洲中古買い取りセンター』である。中古カメラの品揃えがそこそこよく、出物が転がってることがある。
「S40は2台置いてますね」
「あの人はS30でなくては嫌だと言います。 壊れて修理に出したら、部品がないので代わりにS80と交換させてくださいとか言ってきたらしく、それで手放さざるを得なかったそうです」

 結局、S30は見あたらなかった。次の予定が押しているので、ホテルのある町まで移動することにした。
 なお、発車間近の快速列車に乗るために構内を走っていたため、各務ちひろからの音声着信に穂香が気づかなかったことを、付記しておく。

Scene3 14:00 桜木町駅前

 当初、集合時間はこの時間、集合場所はこの場所と設定されていた。
 ちひろの電話は、『14時チェックインのホテルに荷物を置いてきてからじゃ14時にここまで来られないので、川崎で待ち合わせにしますか?』というものであったが、穂香は『多少は遅れることがあってもその程度。今更変更も面倒だしそのままで』と返答していた。事実、集合時刻5分前に二人はこの場に到着していたのだから、穂香の読みは正しかったといえる。

「出てきませんね」
「構内で、って線は薄いと思うけど」
 桜木町駅の改札は1カ所。構内も狭い。待ち合わせには適さない場所だ。
 二人の立っている場所は、構内からみなとみらい方向へ出た場所にある、広いスペースの一角であった。校内から出てくる人の、目に付きやすい場所でもある。

 実際、残りの二人は、構内にはいなかった。
 穂香のケータイが喋る。画面には”海側を出たところにあるBeck'sにいます”とある。
 ほどなく、二人の少女がその方向からやってきた。

 各務ちひろ。怪しげな薬を飲まされて……というか自分で飲んで、幼児体型の魔法少女になってしまった、元(?)男子高校生。
 志藤椿。一見したところでは小学校低学年ぐらいの少女に見える、数百年の時を生きてきた絡新婦(じょろうぐも)の化身。

 この二人がコーヒーショップに入っているのは、いささか奇妙な光景だ(笑)

「美味しかったのじゃ」
「よかったですね」
 こういう場にはあまり行かないらしい椿にとっては、新鮮だったかもしれない。
「今日はキャリーカート持ってきてないのか」
「何入れてくるんですか」
 まあ、ちひろは観光には少々似合わない大きめのリュックを背負っていたので、荷物が多いことに変わりはないのだが。

「あれは新幹線というのか?」
「違うだろ…………」
 途中通り抜けた遊園地にあった、『新幹線』という名前のアトラクションには、明らかに京浜東北線としか思えない車両が走っていた。

Scene4 14:30 コスモクロック21

 世界を席巻する某電気ネズミのバルーンが、その観覧車の前にはあった。
「覗き窓がお腹の所に」
 形状こそ異なるが、百貨店の屋上などによく存在した、子供用遊具と同じ物である。
「尻尾の辺りから出入りしていたとしたらイヤだな……」*3
 だがその期待(?)は、裏切られていた。

 みなとみらい地区のランドマーク的存在となっている施設の一つが、観覧車『コスモクロック21』である。穂香は以前来たときにも乗ることを考えたが、あいにくなことに休園日であったため、初乗車となる。

「いくらじゃ?」
「700円。 …………どうせならこっちの方がいいか」
 先頭にいた穂香は、窓口でこう言った。

「3500円券ください」

 2800円で3500円分遊べるプレミアチケット。700円を4人だったので、こちらを買っても出費は同じである。
「はい、ちひろちゃん」
「ぼく、そんなに行かないですよ。 あと”ちゃん”付けはやめてください」
「でも一番近いし」
 4人で使うと、700円分余る。余ったチケットは、ちひろが管理することになった。*4

 待ち時間はほとんどない。四人でゴンドラに乗車する。
「なんです、あれ?」
 これから行く予定の赤レンガ倉庫。その横に人だかりができていることに、ちひろが気づいた。手持ちの高倍率ズームのデジカメで撮影するが、高所にあるゴンドラは風の影響をまともに受け、うまく撮れない。
「こちらの方が寄れる」
 設定をすこし変更して、穂香が自分のデジカメで撮影する。
「何かのイベントだな」
「後で行ってみましょう」

「あれ、なんだ?」
「露天風呂?」
「……足湯じゃな」
 観覧車が下りにさしかかった頃、ビルの屋上に不思議な一帯を見かけ、四人の視線はそちらへ向いた。
「こんなところに露天作ったら覗き放題じゃないですか」
 想像した四人は、漏れなく赤面した。
「……遠い昔や海の向こうでは当たり前じゃ」
「先に露天作ったら後から観覧車ができてしまったとか」
「だったらクレーム入れて欲しい」
「白いバズーカ持った人が観覧車に大挙して乗り込んでくる」
 ”白いバズーカ”の意味が分かるちひろは、吹いた。

「先ほどの写真が800円か。 いい商売じゃの」
 観覧車から降りると、入り口で撮影した写真を売っていた。四人はそもそも撮影していないのでスルーする。
「……あれで800円は高い」
 一瞬だけ機材を確認した穂香がそう漏らしたのは、観覧車を遠く離れてからであった。

「怖さが選べますって」
「カレーじゃないんだから」
 お化け屋敷の前にある看板に、そう書かれてあった。
「だいたい、どうやって調節するんでしょう」
「……あれ? 椿さん、どうされました」
「…………ぬるいのぉ」
 絡新婦である。アヤカシである。言うまでもなく、そちらの方がよほど怖いだろう。
 お化け屋敷に入ったら、お化けの方が逃げ出しそうだ…………

Scene5 15:10 赤レンガ倉庫

「美味しそうなビール」*5
「ちひろちゃん、あなた未成年でしょう」
 イベントの正体は、ドイツフェスティバルであった。来年に開港150周年を迎えるこの横浜では、こういった国際色あふれるイベントが多く開かれているらしい。
 ちひろだけでなく椿も飲みたさそうな顔をしていたが、生憎四人とも未成年(扱い)である。

「確かに昔、港に向けて線路は敷いてあったんですよね」
 赤レンガ倉庫前。レールが埋め込まれたかのような地面を見て、ろろみはそう言った。
「先まで行ったら何か案内があるかもな」
 だが、その先には何もなかった。
「倉庫の中ってどうなってるんです?」
「土産物屋と食事処、のようじゃな」
 歴史を感じさせる建造物の中身は、商業施設化しているらしい*6。四人は外観だけ撮影し、山下公園へ向かおうとした。

 山下公園までは、歩いていけないこともない距離である。
 海沿いを歩いていこうかと思っていた四人は、倉庫の横である看板を目撃した。
「水上バス」
 少し、考える。
「山下公園までなら340円。 どうする?」
「…………どうせだから乗る」
 桟橋で待つことにした。すでに別の船が停泊していたが、乗船する水上バスはそれよりも大きく立派なものであった。
 なお、この水上バスは『シーバス』と呼ばれるが、英語表記では『Bus』ではなく『Bass』である。

「たいして景色が良くないのぉ」
 本来であれば、後部のデッキに位置取る予定であったが、そこはすでに満員。室内席は一応確保できたが、運航ルートの都合で海の方ばかりを眺めることになってしまった。
 歩かずに済んだことと、少々近い位置からベイブリッジを見ることができたことだけは、良かったのだが。

Scene6 15:50 山下公園

「リトルワールド!?」
 山下公園は、そんな状態になっていた。
「ワニあるし、ダチョウあるし、日本代表はなぜか山形だし……」
 ろろみと穂香は過去に行ったことがあるので、こういう感想が漏れるのだ。
「一杯頂こうかのぉ」
 椿はインドブースでチャイを購入していた。
「買う?」
「そりゃ、まだ夜までは長いし、ろくに昼は食ってないけどな」
 穂香とろろみは集合までのスケジュールが詰まっていたため、少々お腹は空いていた。しかし、何も買わずにいた。

「見て、これ」
 『横浜開港新聞』。日付は1869年とある。幕末から維新にかけての日本史に詳しい人なら、楽しく読める紙面である。『坂本、殺害される』や、『空から降ってきた金を見て狂ったように踊る人多数』などの、時代背景に即した記事が並んでいる。
「これ、バックナンバーはないのか?」
 発行は神奈川新聞である。サイトを見に行けば見つかりそうなものなのだが、残念なことに見つからなかった。後に調べたのだが、どうも横浜の開港記念館に行けば見られるらしい。

「見ろよこれ」
 穂香のデジカメに映し出されていたのは、『アフロかき氷』。赤青緑の三原色で彩られた氷が、アフロヘアーのような形に盛られている代物である。
「志茂田さん思い出した」
 最近名前を聞かない人だ(笑)

 ちひろの携帯が鳴る。
「もしもし」
「おひさしぶりです、ちひろちゃん」
 電話の声はジュディ。ちひろたちとも親交のある少女であるが、中身は初老のミュージシャン(?)であり、また、マッドサイエンティスト(??)でもある。
 いつも通り、四人の間で電話を回しながら、現状や明日の予定について他愛もなく話す。
 穂香からちひろに電話が戻ると、ちひろはこう言った。
「あっそうそう。天稀さんから伝言」
『はい?』
「明日のゲームオフ、ジュディちゃんが負けたら会場費全部ジュディちゃん持ちだそうです」
『ええええっ!?』
 ぷつっ

「ちひろちゃん、鬼…………」
「あの会社にいたらぼくも染まっちゃったみたいです。 それと”ちゃん”づけはやめてください」*7
「…………………………」

Scene7 16:30 港の見える丘公園

 元々フランス領事館があったことからそう名付けられた、フランス山。目的地の港の見える丘公園は、この山を越えたところにある。
「どっちから登ればいいんだろ」
 目の前には、左回りと右回りの階段。
「どちらかが近道かもしれんの」
「分かれてみるか?」
 穂香とろろみ、ちひろと椿の2組に分かれてみたが……結局同じ場所に出てきただけであった。

 山を登ったところには、遺跡があった。震災で倒壊し、復元後は火災で焼失した、元フランス領事館である。
「この位置からじゃと間取りが見えてくるのぉ」
 階段の一部が残っていたので、そこから少々高いところに登って見渡す。確かに、見えてくるのであった。
「これ、男子便所だよね」
「いわゆる『アサガオ』」
 階段の目の前に、扉もなしにあったらしい。
「玄関ってここだったんだ」
 少々、直感的でない場所にあった。

「来て良かった」
 フランス山から港は見えない。まさか『がっかり名所』かと思った四人であったが、その先にある展望台から見る横浜港は、絶景であった。
 夕日に照らされる海面と、光を受けて輝くベイブリッジ。イメージ通りの風景があった。工場や港湾施設が目に付くのが、ちょっと残念ではあったが。ろろみと穂香は、ふたりで写真を撮ってもらった。

「ここで出しておこうか」
「まあ、広島土産ってわけじゃないけどな」
 その港を見渡すベンチで、穂香が封を開けたのは、『花畑牧場』の生キャラメル(チョコ)。広島のみならず日本各地、挙げ句の果てには電脳世界のショッピングモールでも購入が難しい代物だ。ちなみに、穂香はこれを購入するために、2時間ほど行列に並んだという。
 なお、穂香のバッグにはこれを入れるスペースさえもなく、ろろみのバッグに入れてもらっていた(……)
「……おいし」
 キャラメルという言葉から想像される食感とは少々異なるが、美味しいことに変わりはなかった。
「しかしこれ、一緒に紅茶が欲しくなるのぉ……もしかして穂香殿、これを見越して」
「見越してない」
 単純にのどが渇いたから、水上バスを降りたところで紅茶を買っただけであった。

Scene8 17:40 大珍楼本館

「18時で予約していた各務(かがみ)ですが」
「え〜っと…………予約がないですね」
 確かに電話したはずなのにと、ちひろは記憶をたどっていた。
「新館の方にもないですねぇ」
「席、空いてないんですか?」
「…………あぁ、たぶんこの『風見』(かざみ)さんのことでしょう。 3階へお願いします」
 オーダーバイキングの注文で出てこないものは、しつこく聞いてみよう。ちひろはそう思った。*8

 ちひろは過去に、何度か来たことがある。その時は個室だったらしく、今回のようなテーブル席での食事は初めてだとか。
「とりあえず、茶を一杯頂こうかの。 ウーロンとプアールで」
 ホットのお茶はポットで出される。全員が一杯ずつ呑んでもまだ余るぐらいだ。
「メニューは…………とりあえず適当に」
 いかにも、といったメニューを注文する。遅くもなく早くもなく、注文はテーブルに運ばれてきた。
「スープ多すぎたかも」
 全員が1つずつスープを注文したのだが、明らかに分量が多すぎた。消化に困る一同。『一般に言う高級食材を食べると体調が悪くなる』という難儀な体質の穂香がフカヒレをスルーしたため、より大変であった。
「こういう普通のが美味しいのはうれしい」
 餃子、焼売、麻婆豆腐。中華と聞いて連想することの多い料理だが、こういう基本的な物に関しては、申し分のない味であった。

「ちひろ殿、ついでにこれも頼む」
「なんでですか」
「『立ってる奴はクララでも使え』と聞いたのじゃ」
「誰が吹き込んだんだそれ」

「北京ダックはえびせんで食べるもののはずなのに」
 同時に頼んだのだが、簡単に出してこれるであろうえびせんが出てこない。仕方ないので、北京ダックだけで食べてみる。穂香も大丈夫だったようだ。
「今更持って来られてもな」
 ほぼすべて食べ終わったあとで、えびせんが来る。仕方ないので、単独で食べてみる。薄味だった。

 大珍楼で夕食を終えた四人は、最後の目的地へと向かった。
「お姉ちゃんたちへのおみやげなのじゃ」
 大通りの方向へ戻るその途中の店で、椿はその店名物のジャンボ豚まんを購入していた。湯気の立つジャンボ豚まんの横に、『クール宅急便』の幟が立っていたのが、少々ミスマッチではあった。
 椿がちひろに豚まんの美味しい店を聞いていたのは、これが目的だったらしい。

 そのままみなとみらい線で移動しても良かったのだが、距離が距離、人数が人数なのでタクシーを使うことにした。運賃は一人当たりに換算すれば少々高いぐらいで済んだのだが、ホテル前に横付けされた上、ドアマンが出てきたのには少々申し訳ない気分になった。

Scene9 20:20 横浜ランドマークタワー

 日本でもっとも高いビルが、このランドマークタワーである。
 近くて特徴のある割にはあまり来たことがないらしく、もっとも遠い場所に住んでいるはずの穂香が、来訪回数がもっとも多かったりする。

 ホテルから地下を抜け、エレベーター乗り場のある3階へと来た四人は、ショッピングモールの中央にある『もの』に目をとめた。
「あの子供……」
 ビルの3階分の高さはあろうかという飛び込み台から、とても飛び込みには適しそうにない浅いプールへと飛び込もうとしている、小学生と思わしき少年の姿がそこにはあった。
「飛び込むしかない。いじめじゃ」
「ぼくでもあんなのはなかったですよ」
 よく見ると、飛び込み台の梯子が途中から外されている。彼に残された行動の選択肢は、怪我覚悟でプールに飛び込むことしかないようだ。
 ……むろん実物ではなく、そういう人形が展示されていただけなので、安心していただきたい。

「世界最速じゃと?」
 エレベーターそのものに、椿はあまり乗ったことがない。ましてや世界最速クラス、最高時速45km/hのエレベーターなど。
「耳が変です」
 ろろみだけでなく、乗車後は全員そうなった。

 昼間は曇がかかっていた空も、この時間になると雲が晴れ、美しい夜景を覗くことができた。
「まだ、あそこで何かやってそうですね」
 昼間に観覧車から覗いたのと同じ場所には、変わらぬ人だかりができていた。
「降りてから行くか?」
「だから…………」
 しつこいようだが、四人とも世間的には未成年である。ビールは飲めない。だいたい、夜何時まで開かれているかの確認もできていないのに行くのは、少々リスクが高い。

「綺麗じゃ」
 昼間に乗った観覧車。昼間は時計としての役割しか果たしていないが、夜になると華やかなイルミネーションで飾られる。
 先ほどまで歩いてきた場所を見下ろす。結構歩いたかもと、それぞれが思っていた。
「あ、ナイトクルーズの船だ」
 本来、東京湾のナイトクルーズを考えていた四人。しかし三人(アイドル作家で懐が豊か?なろろみを除く)には、あまりにも高すぎる出費であったため、あきらめていたのであった。
「あの上からだと、ここはどう見えるんじゃろうな」
 昼間に乗った水上バスでは座席の都合上、海の方しか見えなかったので、想像するしかなかった。
「夜は厳しい」
 みなとみらい地区の夜景を撮影しようとしたちひろであったが、状況は昼間の観覧車以上に悪い。
「…………夜景モードって三脚必須」
 シャッタースピードが妙に低いことに気づいた穂香が設定を確認すると、夜景モードになっていた。1秒間手持ちでカメラを静止させるのは、熟練した人間でも難しい。

 展望台の中にあるカフェが閉店してしまったので、自販機で飲み物を買う。穂香の購入したホットカフェオレだけが、妙に少なく見えた。
「熱くならないように、わざと大きめのコップにいれてるのかしら」
 実際、そういう注意書きはあった。しかしそのために、コップの半分も入っていないように見えてしまう。
「なんか、損した気がする」

 閉館のアナウンスに背中を押されるかのようにして、四人はエレベーターを降りる。エレベーターを降りると、昼間に見た電気ネズミが、今度は宙にぶら下がっていた。よく見ると、ペリカンにくわえられていた。
「ピカチュウゲットだぜ(ペリカンが)」*9
 ほとんどの店はクローズしている時間であったので、駅へと戻り、そのまま京浜東北線の車中で、流れ解散となった。
「椿さん、寝過ごさないでくださいね」
「……了解なのじゃ」
 すでにうとうととしていた椿を車中に残し、ろろみと穂香は同じ駅で列車を降りた。ちひろはさらに手前の駅で下車している。
 ろろみと穂香、二人のその後は、読者の想像にお任せする。

 余談ではあるが、翌日のオフの結果は、ジュディがトップ、ちひろが最下位となり、ジュディは見事に逆襲を果たしたのであった。

おまけ

「え、負けたの?」
「……負けました」
「最下位なの?」
「……最下位です」
「マジで?」
「……マジです」
「ゲームなら誰にも負けない、って豪語してたおまえが?」
「だってしょうがないじゃないですか、どれもこれも殆ど初めてやったゲームばっかりだし。最後のゲームなんて、よしこれから追い上げってところで時間切れになるし、しかもそのゲーム配点高いし」
「あーはいはい、言い訳は見苦しいよ」
「酷っ!」
「あーあ、決済迫られて涙目のジュディちゃんを隠しカメラで撮ってやろうと思ったのに」
「……あのヒト金持ちだから、数千円押しつけられたくらいじゃ涙目にはならないのでは?」
「う、それもそうか。にしても、思ったよりたいしたことなかったんだなぁ、ちーちゃんてば」
「うー……次こそは勝ってやるっ」


*1 LOOX U アスキーコラボモデル。専用コスメバッグは本当に小さく、本体+αしか入らない
*2 略して葬鉄……あぁ、横浜から西に走ってる、あの電車か(違
*3 『口から入って尻から出る』となったら最悪である。
*4 ちひろなら観覧車以外を遊ぶかもしれない。なにせ小学生だし。
*5 多分言ってみただけで、本心ではないだろう。ちひろは当然、天稀もビールは飲めないし。
*6 函館の金森赤レンガ倉庫も同様でした。中身はショッピングモールなど。
*7 染まった部分よりも、ちひろは天稀に頭が上がらないので、やれと言われたら断れない部分が大きいような気がする。
*8 日本のそれが厳密すぎるという気もするけど、中華風の接客はよく言えば人間味あふれる、悪く言えば少々忘れっぽいかいい加減なところがあるので、行くヒトは気をつけよう。主張をちゃんとしないと永遠に忘れ去られる危険すらあるかも。
*9 むしろ食事中。「美味だぜ」『ピカチュウ!』

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Last-modified: 2008-10-26 (日) 15:15:04 (5677d)