少女は言った。
「つまり、お兄ちゃんは魔法で女に変身しちゃったってわけ♪」
「大丈夫。3時間でもとに戻るから。」
「男が女に変身して経験するセックスは、もーとんでもなく気持ちイイものらしいよ?」
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最大の被害者、あるいは
作:きりか進ノ介
おことわり
・エロいです。なんとか18禁ではないと思いますが微妙。
・すでに少年でも少女でもありません。
・拙作「ザ・ゴールデンロード 3」番外編になります。
以上をご了承の上でお読みくださいませ。
朝だ。
とっさにどこに居るのか分からなかった。ただ布団の中で、なんだか気持ちが高揚していた。首だけ起こしてそっと周囲をうかがうと、俺のいるのはケバケバしいピンク色の大きなベッドの上だ。正面に大きなテレビが目に入った。なんとなく鼻につく生臭い匂い。どこなのかを思い出すと同時に、俺はすぐに高揚した気持ちの理由を思い出した。
妙な経緯で女にされて、ダチの男とラブホでヤって、それが気持ちよかったのだ。
……けっ。ロクでもねえ。まともに考えると吐き気がしそうだ。
でも。そのロクでもねえことが幸せだと思えるほどに、滅茶苦茶に気持ちよかったってことだけ憶えてる。まったくなんてこった。もうひとつため息をついて、俺は上半身を起こした。ふっと見下ろしてみれば、俺の胸には美しい女の乳房がふたつついている。
「……え」
時計を見た。間違いなく、朝になっている。
女でいられるのは3時間だけ、という話だったはずだが。
「! アレもねえっ!」
俺は飛び起きた。洗面所へ走る。鏡、鏡。あそこには鏡が置いてあったはずだ。
等身大の鏡に全身を映して、おれは唖然とした。
全裸の女が映っている。
きれいでいやらしい胸、細くくびれた腰、まるい尻。ぐっと来るほどスタイルのいい、大人の女。
……あ。夢だ。こんなのぜったい夢だ。
俺はそう決めた。そこで、とりあえず笑ってみた。お、かわいいじゃん。それからしかめ面。お、怒った顔もなかなか美人。なんだ俺ってイイ女じゃねえか。面白いなこりゃ。でも、所詮は夢だ。だからこうやってほっぺたを思いっきりつねり上げれば、ほら痛い。やっぱり夢……。
……痛かったらいけないんじゃないだろうか。
思いっきり両方の頬をつねってみる。やっぱり痛い。そしてやっぱり目は覚めない。ぱんぱんぱんっ、と頬を叩いて、それから顔を撫で回す。鏡の女は正確にそれをトレースする。
「あー、あーあーあー。本日はせーてんなりー」
高い声。女の声。ということは、もしかして。もしかして。
ごくんっ。
もみもみもみっ。
「みゃふぅんっ」
俺。俺。俺。やっぱり……。
「みぎゃああああっ!」
叫んだよ。叫ばずにいられますかっての。
「……どうした?」
げ。ソファで寝ていたはずのトオルが起き出してきやがった。俺はあわてて体を隠そうと……って隠せるわけねえよっなんにも持ってないし!
狭い洗面所で、トオルと俺は顔を見合わせたまま黙ってしまった。今の俺はハダカの女。トオルは男で、トランクス一丁だ。
「おい。ちょっとアッチに行けよ」
顔は赤かったかもしんないが、俺はとにかく言いたいことは主張した。
「……だって、お前」
「いいからっ! なんかの間違いだから!」
「3時間で男に戻るんじゃなかったのか?」
「俺だってそう思ってたよ! なんでこうなんだよ?」
「さあ……。 ま、とりあえずさ」
ずい、とトオルはこちらに一歩を踏み出した。俺は一歩、後ろに下がる。その後ろは壁だ。もう後が無い。
「……な、なんだよ!?」
「とりあえず、もう一発、ヤろうぜ?」
トオルのアレはトランクスの中でびんびんに立っていた。ば、ばかやろう、お前なに考えてやがる、そんな……そんなのステキっ。とってもおいしそう♪ ってウソ! 今のなし! そんなこと思ってない! だから。
「待て、落ち着け、アッチ行けっ! あっ」
トオルは俺に襲い掛かっていきなりぎゅうっと抱きしめた。
「だ、だめだっなにしやがる」
ばかやろう、そんなことして気持ちよくなったらどうすんだっ、ああんっ ……ほ、ほら見ろ、女のカラダはビンカンなんだぞ、いやんっちょっと撫でちゃだめっ。
トオルは俺の言うことなんか聞きもしないで、耳元でささやいた。
「昨夜は良かったんだろ? も、もう一回……」
「ダメだって! そんな場合じゃねえだろ、そんな……」、
そんなところ……さわったらだめえっ……力が抜け……やん、感じちゃうっ……
「や、やめろおっ! さわるなあっ!」
最後の理性を振り絞って俺は叫んだ。だがそこまでだったかもしれない。
「そんなっ ……ら、乱暴にさわらないでっ ……おねがいっ……優しく……はぁんっ」
拒絶なんてできるわけがないって。
だって……こんなに気持ちイイんだもん。
「やんっ、……ねえ。 続きは、あの、ベッドで……」
あとはこっちの都合で割愛。のぞいちゃだめよ?
その日が過ぎて。
2日、3日、4日。
そして一週間が経っても、俺の体は男に戻りはしなかった。
ぴんぽーん。
チャイムが鳴って、俺は身軽に立ち上がった。
雑誌をそこに置いて、カレーの鍋の火を消してから玄関へ。
「ただいま」
「おかえり、トオル」
行き場をなくした俺は、しょうがなくトオルの部屋に居候していた。しょうがないので玄関でおかえりなさいの軽いキス。しょうがないんだからな?
「ごはんにする? お風呂にする?」
居候のつとめだ。メシはまずいかも知れないが、それくらいの用意はしてやる。でも……でも、せっかく作ったんだから、ちゃんとおいしく出来てたらいいな。いやでも、そんなことより実は選択肢はもうひとつあって……。
顔を真っ赤にして、俺はトオルを見つめた。
「それとも。 あ・た・し ?」
言っちゃった。言っちゃったよ俺。恥ずかしいっ。
トオルは驚いたように俺を見つめて、だがすぐに目をそらした。
「……ふろ」
「……あ、そう。お風呂ね」
がくう。
強烈な脱力感を笑顔でかくして、俺は立ち上がった。そうだよな、風呂がいいよな。仕事で疲れて帰ってんだから、まずは体を流してあったまりたいよな。
そこで後ろを向いて、先に立ってとりあえず部屋へ……。
するり。
「あ」
俺のエプロンが床に落ちた。後ろに立ったトオルが、すばやく結び目を解いたのだ。
「やんっ」
エプロンが落ちると、そこに居るのははだかの俺。
だって。はだかエプロンだったんだもん。
お前にする、以外の答えなんて想定してなかったんだもん。
「なによぉ。お風呂にするんでしょ?」
拗ねてみせた俺の肩を、トオルは強引に抱き寄せた。
「一緒に、入ろうぜ」
「ん、もうっ」
……そういうことなら、先に言ってよね?
でも、大きな手で肩を抱かれて体をぎゅうっと押し付け合っていると、そんな不満はすぐに消し飛ぶ。んふっ、ほっとする。あったかい。だいすき。
俺はトオルの首に腕をからめた。至近距離で見つめあう。
初めてお化粧したしルージュも塗ってみたから、今日は一段と色っぽいはずだよ。
それから、今度はゆっくり唇をかさねた。気持ちをこめて。愛をこめて。
えへへっ。
今日もいっぱい気持ちいいことしよーねっ。
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